
(宗教工芸新聞2014年12月15日号より引用)
伝統の菊で落ち着くお正月のお仏壇
お供えの花をアートフラワーで作るようになって、気付いたことがあります。
菊が思ったより人気がないことです。
特に女性からは「菊を入れないで」というリクエストが多いのです。
せっかく造花で作るのだから、ありふれた花でないものを、ということかしらと思っていたところ、少し納得のいく出来事がありました。
今年の夏のこと。
京都にあるイングリッシュコテージの室内装飾を依頼され、アートのアイビーの葉を壁面にはわせていました。
すると隣のコテージに泊まっていた母娘が、「素敵ですね。拝見してもいいですか」とのぞきに来ました。
アンティーク調の室内をシックに飾り付けた花とグリーンを見ながら、「九州で病院をやっているんですが、九州まで飾りに来ていただけますか」とお母さま。
どこにでも伺いますと答え、室内装飾のパンフレットを渡そうとして「アートのお供え花」用のものしかないことに気付きました。
写っているのは大輪のカサブランカやカラーです。
それを見た娘さんが「私のお棺にはこういうきれいなお花を飾ってほしい。菊は絶対に嫌です」と力を込めておっしゃいました。
医師という、死に近い仕事のせいでしょうか。
菊と弔いの結びつきを見慣れ過ぎているのだとお察ししました。
私自身は菊も好きです。
特にあの凛とした香り。
花の甘さというよりは、ほろ苦さを五感に届けてくれるような香りです。
日ごろは冒険している私も、お正月は伝統的にと思い、菊をアレンジしてみました。
平面的な顔が日本的な和菊と立体的なマムの組み合わせで、器は竹細工をイメージさせる和風に。
ご先祖さまからは「お正月はこれでなくちゃ」という声が聞こえそうです。
今年は早い積雪を迎えた信州です。
霜と雪にあたりながらも、枯れそびれた小菊が庭の片隅に二輪見えて、この強さも見習いたいものだと思っています。
(坂本裕美 アートフラワー作家 カラコレス代表)