(宗教工芸新聞2014年4月15日号より引用)
高級造花で創る「アートのお供え花」が生まれた理由
私は、長野市内で幾つかのアートフラワーの教室を開いています。
教室の生徒さんは女性ばかりですが、ある日60代とおぼしき男性が訪れました。
重そうなガラスの花瓶をふたつ抱えていました。
亡くなった奥さまが大好きだったバラをお仏壇に絶やさないようにしていたが、夏場はじきに萎れてしまう、奥さまの気持ちも沈んでしまいそうで辛いので、いつもきれいに咲いているバラでお仏壇を飾っていたいとのご希望でした。
話しぶりから、その方が毎日お仏壇にお供えをして手を合わせる姿が目に浮かびました。
このように了寧な方でも夏期の花には苦心されている。
造花のアレンジがお役に立つに違いないと思いました。
でもその当時、どうしても使いたいというほどの造花に巡り合えず、プリザーブドのピンクのバラをたっぷり使ったバスケットアレンジをふたつ、奥さまをイメージしながら作りました。
法要の前日という日、受け取りにみえた男性は「これなら和尚さんもびっくりだ」と、ピンクのバラを抱きしめんばかりに晴れやかな笑顔を見せてくれました。
お仏壇には生のお花、造花では仏さまに申し訳ない。
私もどこかでそう思い込んでいたのですが、この男性の気持ちと喜びように接して考えが変わりました。
大切な人を想うからこそ、いつも美しい造花での供養もあり得るのではないかと。
それから「アートのお供え花」にふさわしい素材とデザインを追求しました。
幸い、造花の品質向上は目覚ましく、生花のようなみずみずしい質感が魅力的なお供え花が誕生しました。
「足が悪いので水替えに難儀。ありがたい」との、思いがけない感想もいただいています。
(坂本裕美 アートフラワー作家 カラコレス代表)